Thursday, March 9, 2017

『恋人たち』〜夜、究極の恋〜

 恋愛とは、ふたりの人間におけるエゴイズムであろうか。ふたりの愛のエネルギーが増大すればするほどそれは嫉妬を生み、一方で愛の渦中にあるふたりは、世界からの断絶をますます顕著にするのである。
 映画『恋人たち』(Les Amants,1958)における恋と官能の風景は、その究極的な表現であったといえる。究極的な恋とはこんなにも美しいものだったのかと思わせられる。主人公ジャンヌ(ジャンヌ・モロー)の、夫アンリとの生活は愛人ラウルによって否定され、その否定の否定としての統合が、ベルナールとの夜への逃避行であった。その愛の変遷すら美しい。


 わたしは、ふだんであれば、恋のエゴイズムを前にして、ふたりの世界から排除されたはずだ。しかし、ジャンヌとベルナールの愛の交流は、わたしを正真正銘の夜へといざなったのである。そこは一点の曇りのない、疎外のない夜であった。『恋人たち』は、みる者を夜へとみちびく──いや、みる者自身が夜となるのだ。究極の恋とは夜であろう。